あくまで私が抱いた印象ではあるが、スペインで見たキリストと、クスコのキリストは違った。
ペルーの男性は、ガッシリした体型の人が多い。 あまり身長は高くないが、広い肩幅にくびれの少ないしっかりした腰。 そんな体型のキリスト像が、クスコにはたくさんあった。 これは、ヨーロッパで見た青白く折れそうなほど細い、悲愴感のあるキリストとは違っていた。 また、キリストが腰に巻いている布も、フンドシのようなヨーロッパ式とは異なり、クスコではスカート型の布をまとっているのも多かった。 ********** リマにあるラルコ博物館の解説によると、スペインの侵略によってアンデス先住民の宗教や思想が廃止されたものの、 《撲滅政策から生き長らえたアンデス古来の宗教・思想は、ヨーロッパ由来の新しい概念と融合し、新たな外観のもと、古来のメッセージを発し続けた》 とのことである。 これまでピラミッドを建設していた技術者は教会の建設を、土器職人らは聖像の彫刻を、画家はヨーロッパの技法に従いキリスト教の宗教画の制作を行うようになったが、アンデスの芸術家らは、ヨーロッパ文化を独自の方法で再解釈し、地場の宗教と習合させたようだ。 たとえば、アンデスの最高神らは三位一体に、パチャママという大地の神は聖母に、鳥の戦士は同じく翼を持った火縄銃の天使として描かれた。 クスコの教会や宗教関係施設には、これらのモチーフを含んだ絵が多数飾られている。 山のようなマントをまとった聖母、翼を生やし銃を持った戦士のような格好の天使も、ヨーロッパでは見かけなかったものだ。 ********** 遥か昔から土地と一体にあるアンデスのアイデンティティは、無にできるものではないのだろう。 そんなことを考えながらクスコで教会めぐりをしていたとき、ラ・メルセー修道院で印象的な彫像に出会った。 緑、赤、黄など明るい色の伝統衣装をまとった黒髪の女が、脇腹と両手両足の穴から血を流した若い男を抱きかかえ、放心とも祈りともとれる表情を浮かべている。 この男、明らかにキリストではなく、女の服装もマリアではないのだが、このポーズはピエタ(十字架から降ろされたキリストと、キリストを抱きかかえるマリアの像)である。 英語の説明書きがなく、作者も意図も時代背景もわからない。 そのため私の勝手な想像ではあるのだが、これを見ていると、この土地で起こったことを考えずにはいられなかった。 若く溌剌とした身体の男、まだこれから何十年も生きられたであろう男が血を流し、それを呆然と抱えるしかない女…… さぞ悔しかったろう。 自分の国が、文化が、これまで積み上げた何もかもが壊され、全く違う神や価値観によって上塗りされていく。 キリスト像の形式をとりながらも、アンデスの人々の嘆きが、そこから滲み出ているように思えた。 (サン・クリストバル教会からの眺め;中央にアルマス広場が見える) にほんブログ村
by red-travel
| 2017-03-04 13:08
| アンデス地方(文化・歴史)
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