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タコス屋台めぐり その1 謎の具材の正体

本はあくまで紙がよい

という頑固な私は、世界一周にあたってもガイドブックの電子版を買うことはしなかった。

しかし『地球の歩き方』は一冊だけでもかなりの重さ、行く予定の国の分を全て持って行ったら一体何キロになるというのか。
おお、考えたくもないが考えねばならぬ。

そして考えた結果、『歩き方』を分解。
地図・基本情報といった、安全に旅するのに最低限必要なページのみを切り抜いた。
天地左右の余白も切り落とし、グラム単位で切り詰める。

「安全に旅するのに最低限必要」でないページとして削減の憂き目にあうのは、ショッピング関連とグルメ関連である。

よって、私は各地の名物料理や特産品などについて、あまり情報を持たぬまま旅をしている。

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メキシコではそこら中にタコス屋台がある。

タコスとは、トルティージャと呼ばれる薄く黄色い円形の生地に肉やチーズなどの具材をはさみ、辛めのソースをかけて食べる料理。

メキシコシティを昼過ぎに歩くと、オフィス街の屋台に行列ができ、スーツや制服姿の人々が立ち食いしているのを見かける。
私もそれにまじって腹を満たしているのであった。

タコスの具材の中には、見慣れない食材がいくつもあった。

たとえばピンク色の、アンコのようなペースト。
甘いような気もするし、挽き肉のような味がしないでもない気もする。
これはおそらく何らかの豆をぐじゅぐじゅに煮込んだものであろう。

そしてピーマンに似た黄緑色の、ちょっと粘り気のある、茎のような食材。
これは何であろうか。

味はこれといって特になく、しいて言えばピクルスのような感じ。
しかし食感がとてもよい。
シャキッとした、しかしコリッとした歯ごたえのある、野菜のようなもの……。

私が知っている食材で一番近いのは、山クラゲである。
私はこれを「山クラゲ(仮)」と呼ぶことにした。

山クラゲ(仮)は、多くのタコス屋台でライム・玉ねぎのみじん切りなどと並べて置いてある。
自分で好きなだけ入れるシステムの場合、私はこれでもかと特盛りにして味わったのであった。

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こうしてメキシコシティで山クラゲ(仮)を食べ続けていたのだが、その後思わぬところでその正体を知ることとなる。

メキシコシティからバスで8時間ほど、メキシコ中部の高原都市サカテカスの市場付近をうろついていたときのことである。

私はそこで見た。

市場の女性が緑色の物体を

シャシャシャシャーッ

と切り落とし袋詰めしているのを。

それは散々食べた山クラゲ(仮)にそっくりであった。

そして女性の手元に目を向けると、その物体は、なんと何枚も重ねられた平たいサボテンの葉。

こ、これだったのか。
私はそうと知らぬまま、サボテンをしこたま食っていた……!

昨年他界した祖父の趣味はサボテンを育てることであった。
温室までこしらえて、長年大切に愛でていた祖父の顔を思い出し、

じいちゃん、私、サボテンすんげえいっぱい食っちったよ……

と、なんかゴメンな気持ちになったのであった。

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そんなわけで、思いがけず、思いがけないものを食っていたのであるが、これはこれで楽しい。
何でもネットで調べりゃ出てくる情報社会だからこそ、たまには情報を持たずに町を歩き、自分で発見したり驚いたりしたいものだ。

これからもメキシコにいる限り、タコス屋台を見つけたら、祖父の冥福を祈りつつ、サボテン特盛りで食べまくるつもりである。

タコス屋台めぐり  その1  謎の具材の正体_b0369126_114856.jpg

(メキシコシティの屋台で調達した、ある日の夕食。左のタコスに乗っているのが「山クラゲ(仮)」)

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by red-travel | 2017-03-07 12:01 | メキシコ
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