私が最初に見たディエゴの壁画は、メキシコシティ、ディエゴ・リベラ壁画館の〈アラメダ公園の日曜の午後の夢〉であった。
これは、メキシコの歴史において重要な役割を担った人々と名もない民衆を、時と場所を超え組み合わせて描いた横長の巨大な作品である。 公園の緑、気球やパビリオンを背景に、銃を持つ民衆、警官、上流階級、スリをはたらこうとする少年、新聞売りやパン売りなど、様々な人間が登場する。 その中にはディエゴ自身も子どもの姿となって、メキシコ特有のドレスを着たガイコツと手をつなぎ、フリーダの近くに描かれている。 一見して、 あれ、意外と激しくないな と思った。 メキシコの人々に民族の自覚を促すのが壁画運動の目的であるから、壁画は当然、強い色彩を用いたメッセージ性のあるものだろうと思っていた。 実際に、ディエゴと並んで壁画運動を代表するシケイロスやオロスコの壁画を後に見ると、テーマや中心人物が強調されており、色も強烈であった。 しかし目の前にある絵は、穏やかで平和的とも言える色調。 特定の人物、たとえば歴史的重要人物や革命の指導者などが大きく描かれることもなく、ディエゴ自身やフリーダも、民衆と同じ大きさである。 そこにはあからさまな主張はない。 叫びもない。 ただただ等質的に、人々が描かれている。 ********** 文部省のディエゴの壁画は、「壁画」という言葉のイメージを遥かに超えたものだった。 これは、まずその規模に圧倒された。 三階まで、中庭に面した全ての壁面に描かれた「メキシコ」。 一階の壁には、トウモロコシの収穫、鉱山労働者、南国風のフルーツを運ぶ女、水上マーケットなど、人々の生活の場面。 二階には、古代の石版を連想させる絵と、メキシコの各地域ごとのエンブレム。 三階は、ワシやヘビ、コンドル、コーンを持つ女などが象徴的に描かれるほか、フリーダも登場する兵器工場、銃を持つ男女、こっけいな顔の白人たちなどの、現代的な場面も取り上げられている。 国立宮殿においても、廊下に面した壁にずらりと、ピラミッドなどの古代メキシコの建造物、スペイン人の侵略者たち、市場や交易の様子、現代的な工場や労働者などが、メキシコの歴史を包括するように描かれていた。 どれも一つ一つは、本当に穏やかなのだ。 しかしその建物に身を置いて、ぐるぐると廊下を歩き壁画を見上げていると、これまでにない感覚にとらわれる。 絵が静かに語りかけてくるようだ、 民衆だ、 民衆の中にこそメキシコのアイデンティティがある、 人々を見よ、生活を見よ、歴史を見よ。 その全てが「メキシコ」だ。 我々の「メキシコ」だ…… 壁画は古代からこの地域で描かれてきたため、メキシコらしい新時代を築こうとする運動に用いられたという面も、もちろんあるだろう。 しかし私はどちらかというと、そうした「絵で示す」手段としては、強烈な偶像崇拝を布教の手段としたスペイン・カトリックを連想する。 壁画というものが、目には目を、というメキシコの抵抗のようにも感じられ、ディエゴはそれを穏やかな色彩で表したと思うと、 ……言葉にできない感情が込み上げる。 ********** 社会を変えようとするとき、画家がここまで直接的に役割を担い、実行し、人々に訴えかけた国を、私はほかに知らない。 底知れないメキシコという国。 100年の時を経て私はそこに立ち、ただただ圧倒され続けている。 (メキシコシティ、文部省;ディエゴやシケイロスの大規模な壁画作品を、タダで見ることができる) にほんブログ村
by red-travel
| 2017-03-08 15:42
| メキシコ
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