「いいわねえ。私は海外はおろか、国内だってほとんど旅行しなかったわよ」 1年前、世界一周の準備をする私を見て祖母がつぶやいた。 少女時代に戦争を経験し、日本の復興、高度成長とともに生き、そして気がついたら旅行どころか近所のスーパーに行くのも苦労するほど年を重ねていた祖母。 ちょっと胸が詰まりながら、 「そっかー、そうだよね。ばーちゃんはどんな国に行ってみたかったの?」 と聞くと、 「そうねえ。ハワイがいいかねえ、うん、アメリカ。あと、フランスとか」 祖母よ、ちょっと待て。 それは旧連合国ばかりじゃないか。 かつて祖母の世代は鬼畜米英相手に戦ったのではなかったか。 その点を問いただすと、 「まあねえ。でも綺麗そうだし。行ってみたいわねえ」 とのこと。 おお、何ということ。 特にアメリカなんてものは、非常に印象がよくない。 日本に二発も原爆を落とし、ベトナムに枯葉剤を撒き、その後もいろんなことをしまくっている国である。 ベトナムで枯葉剤の影響を受けた人々の写真を見て以来、私はさらにアメリカへの悪印象を強めた。 祖母が許しても私は許さんぞ。 ********** 上記のような歴史的因縁もある上に、アメリカという国は恐ろしげでもある。 ドラマCSIシリーズを見ていると、夜な夜なクラブで若い男女が遊びまくり、ドラッグに手を出し、その夜のうちに殺され(ときには目をくり抜かれたり臓物をえぐり出されもする)、死体を前に捜査官がブラックジョークをとばしており、大変にクレイジー。 が、そんなクレイジーなアメリカに、今私はいるのである。 小田実は『何でも見てやろう』というアメリカ留学記を書いたが、私はアメリカで何でも見てやる度胸はない。 安全そうな場所の昼間の姿のみ見て回るつもりだ。 とにかくアメリカはロクな国ではなさそうであり、じゃあなぜ行くかと言われれば、アメリカには世界的に有名な博物館群があるので、それらを訪れるために来たのだ。 アメリカは嫌いだがミュージアムは好きだ。 アメリカにはアジアの美術品がたくさんある。 日本の美術品も戦後アメリカに大量に流出したようで、数年前上野で開かれていた「ボストン美術館展」を訪れた際には、浮世絵の数々を鑑賞しながら、これだけ日本の美術品がアメリカにあるのかと驚くとともに、なんか納得いかないというか、日本にあるべきじゃないの、と悔しさも感じた。 アメリカ人が常設的に見られるのに、日本人の私は初めて見た。 許せん。 こっちから見に行ってやろうじゃないの。 ********** 私の世界一周最後の国、アメリカ。 ただの巨大な化け物なのか、それともそうではないのか。 短期間ではあるが、この目でなるべく多くを見て、祖母に報告したいものである。 にほんブログ村
by red-travel
| 2017-03-23 11:38
| アメリカ合衆国
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