私は欧米一辺倒には異を唱えたいほうであって、ヨーロッパやアメリカのやり方が正しいわけじゃないと思うのではあるが、美術館の楽しみ方については、あちら流の方が上手だと思う。
平日の昼間に行った上野の国立西洋美術館では、来館者は年配の男女がほとんどで、子どもがあまりいなかった。 これは、欧米の美術館とは明らかに異なる光景であった。 欧米ではどの美術館でも、必ず子どもの集団が何組もいた。 わあわあと歓声をあげながら絵から絵へ飛び回る。 学芸員が絵のすぐ前に座らせ、簡単なパネルなどを使って何か説明し、子どもは手を挙げて意見を言う。 時には名画まであと数センチというところまで近づき、見ているこっちがハラハラするほどであった。 ウィーンでは金色模様が美しいクリムトの大作の前から子どもたちが動かず、 こっちは無職なのに一般料金で入ってんだ、ゆずらんかガキどもっ! と思わないでもなかったが、とにかく子どもたちは笑い、楽しそうに絵の前ではしゃいでいた。 幼いうちからこんなに贅沢に絵画を味わえば、絵も美術館も身近なものに感じるだろう。 それは、日本でよくありがちな、美術館に対して身構えてしまう緊張感とはかけ離れた、自由で豊かな感覚だろうと思う。 ********** 国立西洋美術館では、このようなこともあった。 私が絵を見ながら手帳にペンを走らせていると、学芸員が近づいてきて、 「申し訳ございません、ボールペンの使用は禁止されております」 とのこと。 おお、知らなかった。 こんなことを言われたのは日本だけである。 シャープペンもいけないと言うので、美術館のえんぴつ(競馬場に置いてあるような、芯を短いプラスチックにとりつけたもの)を借りてメモをとり続けたのだが、濃度が薄くて硬く、正直言って書きにくい。 「写真はお撮りいただけますので」 と親切に声をかけてもらったが、そういう問題ではないのだ。 私は絵のタイトルや説明だけをメモしているのではない。 他の鑑賞者が面白いコメントをしていればその言葉を、部屋の壁の色や空気感がいいと思えばその様子を、何より自分がその絵を見てどう思ったかを書きとめている。 それは写真では残せない。 作品保護や防犯上の意図などであろうが、果たしてそのルールは本当に必要だろうか。 ロープを張って絵に近づけないようにしている日本の美術館では、ペンのインクも絵までとびようがないし、美術ファンであれば絵を損ねないよう気を遣う。 私にしても、歩くときはペン先が他人に当たらないように気をつけている(もっともヨーロッパの美術館は広すぎてほとんど人とぶつからないが)。 それにもし遺恨のある元上司などを見かけても、そっと近づき背後からペンを突き立てる、なんてことは絶対にしない。 ええしませんとも、美術館の敷地内では。 ********** ワシントンのナショナルギャラリーでは、ところどころにイーゼルが立てかけてあり、それは市民が絵を模写するためのものであった。 名画を間近に見ながら、何日もかけてじっくり仕上げていくのだろう。 実際に絵を描いている若い女性や年配の男性を見かけた。 自由にメモしたりスケッチしたりできる。 美術館がそんな空間になれば、来館者それぞれが、より自分に合った楽しみ方を見つけられるに違いない。 そんなわけで、美術館の所管官庁である文科省が今すごくすごーく忙しいのは承知しているけれど、美術館におけるペン使用全面解禁についても検討してみてほしい。 私の「ご意向」、一理あるでしょ? (ニューヨーク近代美術館、通称MoMAに展示されたゴッホの《星月夜》;画家の千住博はゴッホについてこう述べる。 「ゴッホのことを狂気だったと言う人がいるけれど、私はそうは思わない。…… 色の使い方や絵具の選択をみればわかります。正常な考え方をした人ですよ」 (千住博・野地秩嘉『ニューヨーク美術案内』光文社新書)) にほんブログ村
by red-travel
| 2017-05-31 12:02
| 旅、その後
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